札幌高等裁判所 昭和34年(う)144号 判決 1959年8月18日
控訴人 被告人 寺山昇
弁護人 山根喬
検察官 村上三政
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人山根喬提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意第一点(法令適用の誤り)について。
原審が、原判示第一、第二、第三および第六の各所為を、公文書偽造罪を構成するものとして、刑法一五五条一項を適用処断していることは、まことに所論のとおりである。所論は、これを要約すると、公務員を欺罔して免状に不実の記載をなさしめて、その無形偽造を遂げその交付を受けたときに、免状不実記載罪は既遂となり、爾後における原判示のごとき写真貼り替えの所為は、当然右犯行に吸収されるものとして、また事後処分として、処罰の対象から除外されるべきであるというにあるが、しかし、当初から、不正な手段で、他人名義の免状(自動車運転免許証)を取得する意図の下に、その他人の氏名を詐称して、一応他人名義の自動車運転免許証の交付を受けた上、これに貼付されている自己の写真を剥ぎ取り、これに代えてその他人の写真を貼付する行為は、真正な自動車運転免許証の作成名義を利用して、これとは全然別個な同免許証を、権限なくして作成するものであつて、免状不実記載罪とは別に、刑法一五五条一項の公文書偽造罪を構成すること疑なく、後者は前者に吸収されることのないのはもとより、後者をもつて、前者の事後行為として、不問に付すべきものでもない。両者は併合罪として処断すべきであつて、所論引用の最高裁判所判例は、本件に適切でない。(原判決は、併合罪として処断すべき原判示第五、第六の所為を、牽連犯として処断し、この点において、法令の適用を誤つているが、結局において、原判示第三の公文書偽造罪の刑に、併合罪の加重をして、処断刑を定めていることは、判文自体により明らかであるから、その誤りは、判決に影響を及ぼさない。)右と異なる見解に立つ所論は、その前提において、法律の解釈を誤つたものであつて、採用の限りでない。論旨は理由がない。
控訴趣意第二点(量刑不当)について。
本件訴訟記録及び原審において取調べた証拠によつて認められる本件犯行の動機、態様、回数、罪質、その社会的影響等諸般の事情に鑑みると、所論を十分考慮に容れても、原判決の量刑が、不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。
よつて、刑事訴訟法三九六条に則つて、本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊川博雅 裁判官 雨村是夫 裁判官 中村義正)